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James Halliday ジェームズ・ハリデイと探るオーストラリアワインの進化・変遷 [ワイン]

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オーストラリアを代表するワイン評論家であり、同国ワインの最高権威者のジェームズ・ハリデイ氏をお迎えし、オーストラリア大使館でセミナー(主催:ワインオーストラリア日本事務局)が開かれました。セミナーのちょうど2日前、ワイン業界における長年の功績が認められ、オーストラリア勲章(AM)を授与されたばかりのハリデイ氏。参加者から祝福の拍手を受け、終始幸せそうなお顔でした!

1820年から2010年までの同国のワインの進化・変遷をテーマにした話はわかりやすく、さすが!
前職が弁護士だったからでしょうか、話は簡潔で無駄がありません。とは言え、200年弱にわたる歴史なので中味が濃く、まとめるのは結構大変。テイスティングワインはランドマーク・オーストラリアから氏厳選の白・赤各4アイテムが供出されました。進行役は2007年世界最優秀ソムリエコンクールギリシャ大会日本代表の佐藤陽一ソムリエでした。
内在の卓越した品質により世界的な評価を受けている、豪州を代表する際立ったワインの商品群

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世界中から多くの観光客が訪れるオーストラリアのシンボル、シドニーのオペラハウス
(2007年3月photo by Fumiko)

1820年~1900年 ワイン産業のはじまり
オーストラリアのワイン産業の起点はニュー・サウス・ウェールズ州(NSW州)、1788年シドニー周辺にぶどうが初上陸し、1820年代に入り、NSW州のハンター・ヴァレーで本格的なぶどう畑開拓。1831年豪州ワインの父ジェームズ・バスビーがスペインとフランスに赴き、600品種超のぶどう樹を持ち帰る。ぶどう樹はNSW州、ヴィクトリア州(VIC州)、南オーストラリア州(SA州)に広まり、ワイン生産が経済の重要な一部となる。

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SA州のピーター・レーマン社の契約畑「ラルフズ・ヴィンヤード」にある樹齢125年のシラーズ!
1885年の自根のぶどう樹!!(2006年2月photo by Fumiko)

1901年~1960年 酒精強化ワインの時代
1901年に豪州連邦が成立。州税&州物品税の撤廃により、NSW州とVIC州のテーブルワイン産業が衰退。ワイン産出量の90%以上が酒精強化ワインとブランデーになる。第2次世界大戦によって、オーストラリア産酒精強化ワインの大規模なフランス向け輸出が停止、NSW州とVIC州のワイン産地の多くが規模縮小or消滅。

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同国のワインの原点は酒精強化ワイン。ゴールドラッシュで人口が急激に増え、肉体労働を癒す甘口ワインの消費が増大。画像は1907年の酒精強化ワインでぶどうはシラーズ&グルナッシュ主体。凝縮した甘味とワインと一体化した酸のバランスが絶妙、干しぶどう、プラム、ココア、ビターチョコ、香りにバルサミコのニュアンス(2007年3月photo by Fumiko)

1951年~1974年 初期の画期的な出来事
1951年ペンフォールドから「グランジ」初リリース(1962年までこのスタイルは受け入れられない)
1955年ステンレスタンクによる低温発酵のリースリングデビュー、1963年ハンターに初のブティックワイナリー誕生、1951年以降、新規産地&産地復興が活発化

1975年~1985年 ヴェラエタル&冷涼産地ワインの台頭
1971年ラベルに「シャルドネ」と記載したワイン初登場。従来からの欧州系品種に加え、フランス系品種(シャルドネ、ソーヴィニヨン、ピノ・ノワール、メルロ)導入、フレンチオーク&アメリカンオークの使い分け、ブティックワイナリーの普及により衰退していたVIC州復興。

1986年~1995年 試行錯誤の時代
1980年代前半、ひとりあたりの年間消費量が8.8から17.2リットルに。1984年ワイン課税開始により販売量ダウン、小規模ワイナリーが252から568に倍増(うち45%が赤字経営)、1987年SA州による減反政策で古樹の多くが引き抜かれた。

1996年から2002年 速すぎる成長
栽培面積の増加、国内販売と輸出産業の育成目標(合計45億豪ドル規模)を定めた業界戦略『Strategy2025』を2003年早々にクリア。ワインの輸出量も世界第4位に。

2003年から2010年 嵐の海
ワインの過剰在庫、一部地域で旱魃(かんばつ)による水調達のコスト増加。急成長後の変化の中でテロワールを表現したワインの理解促進に注力、世界のベンチマークワインとの比較を促す動きに。

ジェームズ・ハリデイ氏からのメッセージは
チャールズ・ダーウィンの“強い者が生き残ったわけではない。賢い者が生き残ったわけでもない。変化に対応した者が生き残ったのだ”という言葉を引用し、「オーストラリアのワイン業界は消費者ニーズや市場の力などに呼応して、そのあり方を変化させることで生き残り、進化している」と述べ、さらに「画一的でビッグな味わいのオーストラリアワインというイメージがあるものの、状況は変化しており、オーク樽の影響が顕著でなく、アルコール度数低め、より繊細でエレガントさを増した豪州ワインのスタイルがこれからも続き、今まで以上に旧世界(フランス、イタリア、スペインなど)との公平な比較がなされることだろう」と締めくくりました。

ハリデイ氏が選んだワインは
#1:Thomas Wines Braemore Semillion2009
産地:ハンター(NSW) Alc:11.5% 日本未入荷
従来からのハンター産セミヨンのイメージを大きく変える1本。ハリデイ氏は「ハンターヴァレーでセミヨン造りに励んでいる将来有望なワインメーカー」と解説していましたが、未入荷、惜しい

#2:Jacob's Creek Steingarten Riesling2007
産地:バロッサ・ヴァレー(SA) Alc:12.5% 日本未入荷
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未舗装の道を抜けるとクロ(塀)に囲まれたシュタインガーデンが(2006年2月photo by Fumiko)
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大小さまざまな石ころの畑にある樹はリースリングだけ、粒が小さい!(2006年2月photo by Fumiko)

ピュアな品種の味わいが感じられる魅力的なワイン、余韻もエレガント、未入荷(32豪ドル)
これも入荷して欲しい1本!

#3:Coldstream Hills Chardonnay2008
産地:ヤラ・ヴァレー(VIC州) Alc:13.5% 輸入元:ファームストン
ぶどう本来の糖分、上品な酸、口中に何層にもなって広がってくる旨味、かすかな樽香
全体のバランス良し

#4:Cullen Kevin John Chardonnay2008
産地:マーガレット・リヴァー(WA州) Alc:13.5% 輸入元:ファームストン
ビオディナミ、豊かな果実味、ミネラル感、なめらかで上質。「傑出したワイン」とハリデイ氏。

#5:Bindi Block 5 Pinot Noir2008
産地:マセドン・レーンジズ(VIC州) Alc:14% 輸入元:ヴァインアンドカンパニー
#6:Bass Phillip Premium Pinot Noir2008
産地:ギプスランド(VIC州) Alc:13.8% 輸入元:ヴァインアンドカンパニー
ともに少量生産。ハリデイ氏は「ピノ・ノワールの味わいを感じ取るためにも通常のテイスティンググラスではなく、大振りのグラスを用意して利き酒したい」とおっしゃっていましたが、豪州のカルトワイン本来の香り、味わいが十分伝わってこなかった感あり。#5:12,600円、#6:18,900円という価格も含め、旧世界ワインのトップクラスと比較するための試金石になりうるワインか

#7:Mount Langi Ghiran Langi Shiraz2007
産地:グランピアンズ(VIC州) Alc:14.5% 輸入元:ヴィレッジセラーズ
シラーズに共通するミント&ユーカリ香、口中に広がる凝縮感、その後に続く上品な酸の余韻

#8:John Duval Entity Shiraz2007
産地:バロッサヴァレー(SA州) Alc:14.5% 輸入元:ジェロボーム
ヨモギ、赤身肉、ゆでた小豆のニュアンスは旧世界的なイメージがあり好印象、樽香も控えめ

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オーストラリア大使館はホント広~い空間です

2日目はハリデイ氏がヤラヴァレー・メルボルン郊外(VIC州)に立ち上げたワイナリー『コールドストリーム ヒルズ』の輸入元ファームストン主催のランチセミナーでした。
1985年ジェームズ&スザンヌ・ハリデイ夫妻が設立、1996年にサウスコープ社(現フォスターズ)に買収されたが、ハリデイ氏はグループワインメーカーとして活動。

司会の沼田実CWEとハリデイ氏の間でいくつかの質問がやり取りされました。

ピノ・ノワールヘの熱き想い、原点はロマネ・コンティ
医者をしていた父親はハンターヴァレーにあるリンデマンズのセミヨンやシラーズを良く飲んでいたそうです。ハリデイ氏自身ワインを楽しむ生活をしていたので、シドニー大学時代はワインクラブに籍を置くほどでした。1966年大手法律事務所のパートナーに就任、翌1967年豪州の偉大なワインメーカー、レン・エヴァンズに出会います。彼からワインに関する多くのことを学び、結果、1970年同僚らとハンターヴァレーに『ブロークンウッド』を設立します。

1960年後半から1970年代前半にかけてフランスワインの価格下落があり、クリスティーズのワインオークションでもDRCのワインが比較的楽に手に入るようになったそうです。それらのワインを購入し、飲んでいるうちに、1962年ヴィンテージのロマネ・コンティの凄さをまのあたりにし、その頃からピノ・ノワールへの熱き思いが強まっていきます。ハリデイ氏は『ブロークン・ウッド』でワイン造りをしながらピノ・ノワール造りに挑戦してみますが、テロワールが合わず成功には至りませんでした。そこでハンターの地からVIC州のヤラ・ヴァレーに移動、『コールドストリーム ヒルズ』を設立します。「なぜその地を選んだのか?」という質問に対して、氏は「高級なピノ・ノワール、シャルドネ造りの適地としてヤラヴァレーが最高であったから」と答えていました。これを機に、ハリデイ氏念願のピノ・ノワール造りの夢が叶うことになります。

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コールドストリーム ヒルズ ピノ・ノワール2007
コールドストリーム ヒルズのピノ・ノワールは全房を使い、発酵中に果汁をプレスするのが特徴
ヴァラエタルのピノは果実のキャラクターとスパイスの風味が交じり合った素直で上品なワイン

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コールドストリーム ヒルズ ピノ・ノワール・リザーブ2006
07、08はリリースしていないので今ヴィンテージが最新。リザーブワインのために傑出したぶどうを丁寧に選別、フレンチオーク100%(新樽率30%)で15ヶ月熟成。十分なパワー、複雑味があり、まだまだ時間が必要

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左から#1:ピノ・ノワール2007、#2:ピノ・ノワール・リザーブ2006、#3:リザーブ・シラーズ2006
ブリ・ド・モー、フルム・ダンベール、コンテの各チーズと合わせやすかったのは#1
ハリデイ氏のピノへの思いが表現されている、わかりやすくて飲みやすいスタイル

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各テーブルを回って質問に応えるハリデイ氏と通訳の村田みづ穂さん

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お隣に座ってくださったハリデイ氏を撮影!
「一番印象的だったロマネ・コンティは?」との質問に、「今まで数多くのロマネ・コンティを飲んできましたが(凄いです!)、誕生祝いにもらった1929年のマグナムが最高でした。30年代のヴィンテージより、20年代の方が良く、特に'29年は素晴らしい。スイスでDRCオーナーのヴィレーヌ氏と70ヴィンテージを試飲した時も、'29年は傑出していました。誕生年の1938年も魅了される香りで、今でも思い出せます」と回答。

バースデー・ヴィンテージのワインが忘れられないほど素敵な熟成をしているなんて、最高ですね。
バッドヴィンテージ生まれの私は、いまだ同じ年のワインを口にするチャンスなし・・・ハリデイ氏が羨ましいです♪

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あ~ちゃん

バロッサには2007年に行きました~
とっても懐かしいですぅ。
セミナー行きたかったなぁ~
去年のシドニー&ハンターヴァレーもまた行きたいし。。。
オーストラリアフリークとしては(笑)またまた次回はどこにしよと
思っちゃいました~
by あ~ちゃん (2010-06-28 11:40) 

gillman

この間おすすめいただいたオーストラリアのリースリングも飲んでみますね。ちょっと楽しみです。
by gillman (2010-06-28 13:43) 

Mitsy M

いつもながらに素晴しいお写真とストーリーに感動です。オーストラリアの年代毎の変遷。さすが冨美子さま。。。とってもわかりやすくクリアーです。私は1日オンリー数時間のお供でしたが、ワイン人生素晴しくいつまでも心に残る ハリデイー氏との出会いに感謝です。お写真もありがとうございます。光栄です。
by Mitsy M (2010-06-28 23:56) 

fumiko

vientre-dolorさん、早々のチェック、ありがとうございました♪

ほりけんさん、お心遣いのチェック、ありがとうございます!!


豪州ワイン好きのあ~ちゃんへ
はじめまして、コメントありがとうございます! 
今回、ハンターヴァレーのワインに大きな衝撃を受けました。
従来のスタイルとは全く違う白ワイン、チャンスがあれば是非トライを!!


gillmanさん、チェック&コメント、ありがとうございます!
過日用意したKellerのリースリング QbA トロッケン
ドイツ・ラインへッセンのワイン(上代3,200円)なのですが、
世界のリースリング編@カレッジでは講座生の一番人気でした。
なにかの折にお試しいただけましたら幸いです!
http://www.jeroboam.co.jp/wine_maker/keller.html

kojiさん、チェックありがとうございました!

toshiroさん、nice、ありがとうございます♪

by fumiko (2010-06-29 00:14) 

Shin.Sion

オーストラリアのワインってお値段もお手頃で凄く
美味しいらしいですよね~

今回も勉強させて頂きました!

Shin.

by Shin.Sion (2010-06-29 00:29) 

fumiko

Shinさ~ん、チェック&コメント、ありがとうございます!
(Shin.Sionにチェンジ??)
超長文ブログになってしまいましたが、豪州200年の変遷をいかに簡潔に書くかで、今回は試行錯誤しておりました~
>今回も勉強させて頂きました!
そう書いていただくと、苦労も報われます(笑)、感謝!!


Mitsy Mさん!六本木ヒルズクラブではお疲れ様でした!
ハリデイさんの溢れる知識、凄いですよね。
それをすくってまとめる作業、ライター冥利に尽きる出来事だったかも(笑)
お褒めいただき、光栄です、リンクも張らなくっちゃね♪


by fumiko (2010-06-29 01:06) 

hako

長文レポートにも、グイグイと引き込まれました。オリジナル写真も、いいですね。
by hako (2010-06-29 19:32) 

fumiko

hakoさんの温かなお言葉に・・・感涙
100年以上の生命を保ち続けているぶどう樹、100年以上の甘口ワイン
豪州訪問で、目からウロコ体験をした価値ある記録なんです。

by fumiko (2010-06-30 00:08) 

ぱんだしゅりけん

やはりギップスランドのピノを選んでらっしゃいますね~、ハリデーさん^^

オーストラリアといいますと、南西端と南東端(タスマニアも含めまして)の冷涼な地域のピノ・ノワールがちょっと注目されてきているようですが、ハリデーさんもこの地域のピノに高得点をよくつけていらっしゃるように思います。
ギップスランドも丁度タスマニアと海を挟んで向かいくらいの地域でしたよね。

私も以前、ベルヴェールというワイナリーのワインを飲んで驚いた事があります。ブラインドテイスティングに出しますと、皆さんを驚かせられる事請け合いですよ^^
by ぱんだしゅりけん (2010-06-30 23:16) 

fumiko

unicoさん、チェック、ありがとうございました!


ぱんだしゅりけんさん、お久しぶりです♪
オーストリーのGV(グリューナー)種と日本の甲州種好きの
ぱんだしゅりけんさんなので、#1、#2は確実にお気に召すはずです!

>やはりギップスランドのピノを選んでらっしゃいますね~、ハリデーさん^^

#5、#6はともに豪州(ヴィクトリア州)のカルトワイン、
厚みたっぷりのピノ・ノワールでした。

>オーストラリアといいますと、南西端と南東端(タスマニアも含めまして)の>冷涼な地域のピノ・ノワールがちょっと注目されてきているようですが、
>ハリデーさんもこの地域のピノに高得点をよくつけていらっしゃるように思います。

過去に利き酒したタスマニア産ピノ・ノワールの繊細さ、エレガントさが印象深かったので個人的にはそちらのスタイルの方が好きです。
旧世界のピノと比較試飲する面白さも感じます。
by fumiko (2010-07-01 13:15) 

YUTAKA

ワールドカップの同じアジア枠として、オーストラリアを応援して
いましたが、意外と最近、オーストラリアワインを飲んでいない
ことに気がつきました。あっ、講座で先生に教えていただいた
Green Point(CHANDON)は、C.P. が高いので、よく買って
います!

先生の記事を目印に、この夏はオーストラリアにもチャレンジ
してみようと思います。ハリデイ氏の「より繊細でエレガント」な
オーストラリアワインとの出会いが楽しみです♪
by YUTAKA (2010-07-01 14:45) 

fumiko

うつマモルさん、拙ブログへのお立ち寄り、ありがとうございました!
少しでもお役に立てれば嬉しいです!!


hiroさん、チェック、ありがとうございました!!


YUTAKAさん、ご丁寧なコメント、ありがとうございます♪
確かに、グリーンポイントは喉の渇きを癒してくれるスパークリングで、
コストパフォーマンス十分です。
今回ハリデイ氏が準備なさっていたワインは、alcも樽の使い方も、
以前の豪州ワインと比べて、軽くなってきていると感じました。

by fumiko (2010-07-04 20:30) 

yuka

1929年!!それって一体どんな感じなのでしょう~~!!
グランジ位しか知りませんでしたが、こういう情熱がワインを育てていくのでしょうね。
by yuka (2010-07-07 16:34) 

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