SSブログ

ドメーヌ・ツィント・フンブレヒトの当主フンブレヒトMWのアルザスまるごと解説 [Zoom / ワイン]

アルザスとオンラインで繋いで

アルザス地方ドメーヌ ツィント・フンブレヒトのオリヴィエ・フンブレヒト12代目当主による初Zoomセミナー。4種のワインの解説を交えながら、アルザスの多様な土壌形成やテロワール、ビオディナミ、カナダでのコンサルタント等について言及しました。
フンブレヒト氏は、26歳でフランス人初のマスターワイン(MW)取得者になった方です。ワインメーカーという肩書なら世界で2人目、今も昔も向上心の旺盛さは変わっていないようです。プロフィール写真が若い時のままなのも・・・気持ちは昔のままだと言いたいのでしょうかね

  特製ミニボトルで届いたワイン

 左から
 #1:ファントム・クリーク・エステーツ リースリング2017/カナダ産
 #2:ドメーヌ・ツィント・フンブレヒト リースリング ロッシュ・カルケール 2016
 #3:同ピノ・グリ2018
 #4:同ゲヴュルツトラミネール2016


アルザスの沿革
アルザスはフランスの北東部、ほぼシャンパーニュとブルゴーニュの中間、ヴォージュ山脈の東側に位置しています。ぶどう栽培面積は大幅に増大していて、70年前はわずか6,000㌶でしたが、現在は16,000㌶。夏暑く、冬寒い半大陸性気候下にあり、北西から吹いてくる風に含まれる湿気はヴォージュ山脈によって遮られています。アルザスはイメージ的に、冷涼な気候の産地と思われていますが、年間の降水量は500~650㎜、コルマールを例にするなら、年間1,800時間の日照に恵まれています。ぶどうの熟度に関しても日較差があるので、酸味の充実したぶどうが得られます。土質は複雑で多様性に富んでいるので、気候と地形から見ても、アルザス地方はフランスの他の地方とは違う特徴があります。


 地質の成り立ち画像協力:ドメーヌ ツィント・フンブレヒト
 ワイン産地の形成が始まったのは約3億年前の古生代/石炭紀
 ヘルシニア山脈の隆起により花崗岩が形成された。この時期、多くの火山活動があった。
 ヴォ―ジュ山脈の本体(基盤岩)をなすのは最下部の花崗岩と、それが変化した岩石
 海中生物や貝殻が堆積して形成された魚卵状石灰岩(ウーライト)
 貝殻石灰岩(ムッシェルカルク)、その他には、古い二畳紀の赤い砂岩
 三畳紀のピンク色をしたブレンド砂岩等があり、それらが複雑に入り組んでいる。

 ジュラ紀の末期に移動するプレートに押されて、中央部が隆起し、地上に出現。
 白亜紀と始新世初期にジュラ紀の地層は一部分浸食されて平らになった。
 始新世中期には、今までプレートで押されていた力が弱まり、
 隆起していた地形は少しずつ沈降し、周囲の地殻との間に断層が生じた。
 沈降はさらに激しくなり、ラインの両側は、ヴォ―ジュ山脈と黒い森となり、
 沈降した部分に、現在のライン地溝帯が形成された。



       地質時代と地層名 
       出典:武田弘先生作成の地質表
     古生代、中生代、新生代の区分けはこの表でご理解いただけると思います。

出典:アルザス地方の地質に関しては、フンブレヒトMWの解説に加えて、鉱物学の大家 武田弘先生(ソムリエ協会機関誌No81)からご教授いただいたデータを参考文献にしています。


 ワイナリーの概要
 ドメーヌ ツィント・フンブレヒトは1620年から続く家族経営のワイナリー
 次期当主(13代目)となる長男もワイナリーに参画
 6コミューンに41㌶のぶどう畑(すべて認証取得)を所有、伝統的なワイン造りを実施
 生産しているワインは25アイテム、年間の生産量は20万本(年によって若干の変動あり)
 5頭の馬で耕作。急斜面の畑では使えないので、困難な場所はウィンチによる手作業
 畑のぶどう樹はマサルセレクションのみ、クローンは使わない主義
 ぶどう品種はリースリング40%、PG28%、ゲヴュルツトラミネール20%、PN12%他


 オーガニック・ビオディナミ農法に関して
 オーガニックは1990年代から、ビオディナミは1998年から導入
 オーガニック認証エコセール(1998年~)/ビオディナミ認証ビオディヴァン(2002年~)

ルドルフ・シュタイナーに影響を与えたヨハン・ヴォルフガング・ゲーテ
 1920年にビオディナミを始めたシュターナーは、ドイツの詩人、小説家、哲学者で、
 自然科学者でもあったゲーテから多くのことを学びました。
 Zoomセミナーでは、ゲーテが著した「植物を理解するための3つのキー」について、
 それぞれの例を挙げながら、フンブレヒトMWは次のように解説しました。

 (1)方向 (2)エレメント (3)惑星
 (1)方向の1つめは求心力。地球の中心に向かって動こうとする力で、良い例がオーク
  2つめは遠心力、求心力とは反対に宇宙に向かっていこうとする力、例で言えば大麦
  3つめは求心力や遠心力はないが、植物間での交換力のあるイラクサやスギナ
  生姜は求心力が強く、味の濃い果実は遠心力が強い。
  ぶどう樹は求心力や遠心力がほとんどないので
  強いパワーのあるものをぶどう樹のそばに置くことで効果が得られる


 (2)のエレメントは土/ミネラル、水/植物、空気/動物、火/意識
  地球は主に土と水から成るので、ぶどう栽培には地球が持つ要素が必要。
  地球のさまざな要素を増やすためにビオディナミのプレパラシオン(宇宙と植物を繋ぐ役目)
  を使用。火の要素を使うことで、強い味わいが得られる。
 
 (3)の惑星に関しては、
  月は冬を象徴/オーク、水星は春/カモミール、金星は開花/西洋ノコギリソウ 
  太陽は結実/オトギリソウ、火星はベレゾン/欧州ヨモギ、木星は実が熟す/タンポポ
  土星は種が熟すエネルギー(次世代を生み出す)/西洋カノコソウ

 「ぶどうは放っておくとあまり実をつけない植物なので、冬に剪定を行い、
  ぶどう樹にストレスをかけることで良い実ができる
」とフンブレヒトMW
  求心力や遠心力を持たないぶどうは人が何もしないと実をつけようとしなくなる[がく~(落胆した顔)]


気候変動とビオディナミ
気候変動、これは問題なのか、それとも好機か?
フンブレヒトMWが提示した、このテーマを見て、真っ先に頭に浮かんだのは、シャンパンメゾン『ルイ・ロデレール』のジャン・バティスト・レカイヨン醸造責任者でした。彼は1974年にクリスタル・ロゼを発売して以来のアイテムとして『ブリュット・ナチュール フィリップ・スタルク』をリリースしていますが、ビオディナミの導入で、糖度の高いぶどうが収穫できるようになったことが、きっかけだったようで、「気候変動の影響を考え、ぶどう樹の仕立て方や新しいぶどう品種に取り組むこともひとつの選択肢ですが、シャンパーニュ地方のシャンパンという飲みもの、そのアイデンティティをきちんと表現することが大事であり、温暖化だからこそ造ることができたアイテムです」と語っていました。

フンブレヒト氏に話を戻すと・・・レカイヨン氏と同じく、彼も優れたワインメーカーであり、ビオディナミの認証も受けているので、温暖化を好機と捉えていると、私は推測しています。

✥アルザスは10年前と比べて、収穫の時期が3週間早まっている。
✥1970年代と比べると、降雨量が減っている/総雨量は10年ごとに4㎜減少

気候変動による影響
2021年は欧州の多くのワイン産出国が春の遅霜害を受けましたが、アルザスには及んでいません。
10年後にはアルコール度数が1%アップする可能性があるものの、酸の高いリースリングには好都合。
収穫が早まれば、腐敗は軽減されますが、甘口ワインの生産は難しくなります。

発生するさまざまな問題をビオデイナミ農法との関連で考えると、有機栽培をより効率的に行うことが可能になる由。生理的な熟度を得ることが大事なので、早い時期に収穫ができ、温暖化の影響下にあっても、よりフレッシュなタイプのワインを造ることができるとのこと。「畑で完璧なぶどうが収穫出来れば、セラーでの人為的な作業が減ります」とフンブレヒトMW



  4種のテイスティング


 カナダのファントム・クリーク・エステーツでの新たな活躍
 ブリティッシュ・コロンビア州オカナガン・ヴァレーにある新興ワイナリー

ファントム・クリーク・エステーツではボルドータイプの黒ぶどうやオカナガンの代表的な品種シラーやヴィオニエを栽培。白ワインはアルザスタイプに注力しているので、フンブレヒトMWがコンサルタントとしてサポート。今夏からベリンジャー家のマーク・ベリンジャー氏も新ワインメーカーとして就任しています。世界レベルの指導者たちが脇を固めているので、今後の発展が楽しみです。

 今年1月に日本上陸したニューフェイス
 北オカナガンの自社畑イースト・ケロウナのリースリング100%/8,000円

オカナガン湖の好影響下にある冷涼な気候のエリアで、土壌は砂質ローム、粘土、石灰質。土着酵母で4ヵ月かけて発酵させ、ステンレスタンクとフードルを併用して約10ヵ月熟成させたワイン。MWは「アルザスと同じ気候」と語っていましたが、香りはアルザスとは異なる印象。白い花や洋なしの白い果肉を連想、はちみつやミネラルのニュアンス。中盤以降に軽いビター感。


 ピュアさが魅力のリースリングとピノ・グリ
 リースリング ロッシュ・カルケール2016/4,500円

“ロッシュ・カルケール”はフランス語で“石灰岩”の意味”
テロワールはシリカを含む石灰質土壌、畑の向きは東と南、収量78hl/㌶、平均樹齢42年
オークの発酵槽で12ヵ月間発酵させ、オーク樽で18ヵ月間熟成、瓶詰時期2018年2月
石灰質土壌由来の柑橘系果実のニュアンス、凛として引き締まった酸味(オカナガンのワインには感じなかった)、今飲んでも、さらに熟成させても楽しめるワイン。上質な酒質、ポテンシャルあり。リースリング好きは是非! インダイス1


 ピノ・グリ ロッシュ・カルケール2018/4,500円

テロワールは貝殻石灰岩(ムッシェルカルク)、30㌶の森林のなかの7㌶がぶどう畑。畑を取得したのは1989年。ピノ・グリの畑は孤立していて、他との距離があるので、ビオディナミには最適。収量60hl/㌶、平均樹齢28年。オークの発酵槽で14ヵ月間発酵させ、オーク樽で18ヵ月間熟成、瓶詰時期2020年1月。
白い果実、トースティ、ドライ&クリーミー、和の要素に寄り添うワイン、インダイス1


 表情豊かなゲヴュルツトラミネール
 マイベストだったゲヴュルツトラミネール ロッシュ・カルケール2016/4,500円

テロワールはウーライト、収量47ha/㌶、平均樹齢35年、オークの発酵槽で約2週間発酵、オーク樽で12ヵ月間熟成。瓶詰時期は2017年8月、飲み頃は2019年から2028年
第一香から飲み手を魅了するピュアなアロマ、エキゾチックフルーツ、豊潤なテクスチュア、フェノール由来の心地良いビター感、グラス内の温度変化を楽しみたいワイン、インダイス3

インダイス:ドメーヌ ツィント・フンブレヒトでは、すべてのワインに1 から5 までの指標(インダイス)を使用しています。ラベルのAlc表示の下に記載。RSは残糖度。2001年から実施していますが、数値はあくまでも目安 1=RS<9g/L、2=9<RS<15g/L、3=15<RS<30g/L、4=30<RS<45g/L、5=RS>45g/L 


 90分の緻密な解説
 フンブレヒトMWの人となりが伝わってくる緻密な90分でした。

アルザスでビオディナミが発展した理由について、MWは「スイスとの近さにあると思います。1920 年代にルドルフ・シュタイナーが建てたゲーテアヌムはバーゼルにあり、ここはフランスとスイスの国境、かつアルザスにも近いです。バーゼルやライン川沿いでは、人智学の運動がとても盛んであり、フランスで最初のビオディナミワイン生産者もアルザス(1969年)、メゾン・ド・ラ・ビオディナミは当初からコルマールにあります。アルザスには数多くのシュタイナー学校もあり、人口比ではフランスの他の地域よりも多くなっています」と回答していました!


 モノローグ
 オンラインセミナーは5月後半に行われました。

セミナーの時間内では対応しきれないほどの多くの質問があったので、輸入元日本リカーでは、質問を一括してMWに送り、戻ってきた回答は参加者全員にフィードバックするという形式を取りました。フンブレヒト氏らしい、長文の丁寧なお答えばかりだったので、日本リカーの作業が完結するまでに、約1ヵ月かかりました(笑)

偉大な産地でありながら、日本では十分にその魅力が伝わっているとは思えないアルザス! 
オンラインセミナーの詳細な話を、わかりやすくまとめるのに少し苦労しましたが、ワインラバーの皆さまのお役に立てば幸いです。

製品についてのお問い合わせ先
日本リカー株式会社 03‐5643‐9772

nice!(8)  コメント(0) 
共通テーマ:グルメ・料理

nice! 8

コメント 0

コメントを書く

お名前:[必須]
URL:[必須]
コメント:
画像認証:
下の画像に表示されている文字を入力してください。

※ブログオーナーが承認したコメントのみ表示されます。