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Look Back in Wonder ~1976年パリ・テイスティングと2004年ベルリン・テイスティングを振り返る~ [来日したワイン生産者&関係者]

世界のワイン界を驚愕させた出来事
ひとつは、当時無名に近かったカリフォルニア州ナパ・ヴァレーのワインがフランスの銘醸ワインを抑えて、白&赤ともに第1位になった「1976年のパリ・テイスティング」。もうひとつはベルリンを舞台に行われたブラインド・テイスティングで南米チリの赤ワインがボルドーの第1級格付けワインに圧勝した「2004年ベルリン・テイスティング」です!

当事者ふたりが語る歴史的テイスティング
アカデミー・デュ・ヴァン東京校が主催した『Look Back in Wonder』で、仕掛け人であるおふたりから当時の背景、エピソード等について伺うことができました。まさしく貴重な歴史の証人!

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スティーヴン・スパリュアさん&エデュアルド・チャドウィックさん

パリ・テイスティングの主宰スティーヴン・スパリュアさんは1972年にアカデミー・デュ・ヴァン(ADV)のパリ校創設、同東京校は1986年オープン。デキャンター誌のコンサルタント・エディター、デキャンター・ワールド・ワイン・アワードのチェアマンとして活躍中

ベルリン・テイスティングの主宰エデュアルド・チャドウィックさんはヴィーニャ・エラスリス社長、ヴィーニャ・チャドウィック創業者・社長、ヴィーニャ・セーニャ共同創立者として世界レベルのチリワインを伝道中


記念すべきヴィンテージも登場!
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スパリュアさんがイギリスで生産しているスパークリングも披露されました!

第1フライトはパリ・テイスティング、第2フライトはベルリン・テイスティング
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左から順に#1~ #12

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(左から順に)第1フライト 6本、第2フライト 6本

1976年の出来事に至るまでの裏話
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スパリュアさんはパリでワインショップ『カーヴ・ド・ラ・マドレーヌ』を経営しており、店にはフランスの銘醸ワインを数多く揃えていました。当時パリには英語で対応できるショップが他になかったので、来店するカリフォルニアのワイン生産者たちから、「自分たちのワインを評価して欲しい」と頼まれることが多かったとか。そのような経験を通して、彼はカリフォルニアで質の高いワインが造られていることを実感します。
1975年9月、ワインショップでのパートナー、アメリカ人のパトリシア・ギャラガーさんがバカンスでカリフォルニアに行き、その折、様々な生産者を訪問します。そこで、スパリュアさんはテーマを模索。パトリシアさんからの「来年(1976年)はアメリカ建国200周年なので、それをテーマにしては」との提案を受け、1976年4月夫妻でカリフォルニアに向い、最終的にCSとCH各6本のワインを選択します。

パリでのテイスター9名はすでに決まっていました。いずれも著名な方ばかりでしたが、カリフォルニアワインを飲んだことのある人はひとりくらいしかいなかったようです。テイスティング開催の2週間前に、公平にカリフォルアワインを試飲してもらうため、店にあるワインのなかからボルドーとブルゴーニュのトップクラスのワインを選択。テイスターには事前に「カリフォルニアワインを試飲していただきます」と話していたので、テイスティング当日に「今日はルールを変えて、ブラインドでフランスワインとカリフォルニアワインを試飲していただきます」と提案。全員から「問題なし」との返答があったので、5月24日午後、アメリカ建国200周年を記念して、白と赤10種類ずつのテイスティングが行われました。

この時、スパリュアさんはブラインドで無名なワインが上位に入れば、高い品質のワインが造れられていることが証明できると考えていました。しかしながら、結果は全く予想していなかった事態に! 白も赤もカルフォルニア産が1位を独占。ワイン界を仰天させます。ワインの世界を激変させたこの出来事は以後、長く語りつがれています。※末尾のデータ参照
今年はパリ・テイスティングから40周年の記念年になります。

過去20年の変革は過去200年の変化より目覚ましい
スパリュアさんは1986年にロンドンで行われたアンティノリ設立650周年イベント(スパリュアさんは650年と発言していましたが、アンティノリの創業は1385年なので600周年だと思います)で使われていた「過去20年間のワイン界の変革は、過去200年の変化より目覚ましい」というフレーズを引用して、1976年当時まだ無名だったカリフォルニアワインの変革に言及。そして今、注目すべき変化は英国のスパークリングワインであると述べました。

英国産vsカリフォルニアのスパークリング
#1:2013 Bride Valley, Blanc de Blancs
#2:2009 JCB by Jean-Charles Boisset, No. 9 Brut Sparkling

1990年代初め、英国産スパークリング『ナイティンバー』が話題になり、その後も素晴らしい泡ものが産出されるようになります。スパリュアさんは2007年にV&Sでジャン=シャルル・ボワセさんと出会い、それが縁でプロジェクトを立ち上げ、スパークリングワイン造りに着手。妻が南ドーセットに土地を購入、2009年に植樹、ボワセさんの協力のもと、ブラン・ド・ブラン(#1)を生産。 理想は「フレッシュで、白い花を彷彿とさせるアペリティフに合うスパークリングワイン」とのこと。
南ドーセットは冷涼気候でシャンパーニュ地方と同じ石灰質(チョーク)土壌。ここではボワセさんのNo9ブリュットスパークリング(#2)との利き比べ。カリフォルニアのラシアン・リヴァー・ヴァレー内のグリーン・ヴァレーAVAのCH100%、エレガントで温かい年を反映したふくよかな味わい。

パリ・テイスティングの優勝白ワイン『シャトー・モンテレーナ』
#3:2013 Chateau Montelena Napa Valley Chardonnay
#4:2009 Chateau Montelena Napa Valley Chardonnay

「パリ・テイスティングは20点満点の採点法でした。9名のうち、6名がモンテレーナ、3名がシャローンを1位に。4年後の1980年、ロンドンで同じ銘柄(ヴィンテージは若干若い)で行ったテイスティングではシャローンが1位、モンテレーナが3位になり、2つのワイナリーには一貫性があることが証明できました」とスパリュアさん。モンテレーナはMLFをしないワインなので、フランス人の味覚にあったスタイルだったようで、2013年(#3)は若々しくフレッシュ。2009年(#4)はきれいに開いたワインで、まだ果実感もあり、エレガント

優勝赤ワイン『スタッグス・リープ・ワイン・セラーズ』

#5:2013 Stag's Leap Wine Cellars S.L.V. Cabernet Sauvignon
#6:1998 Stag's Leap Wine Cellars S.L.V. Cabernet Sauvignon

「白ワインの結果でテイスターに動揺が見られ、赤ワインの審査では同じミスをしないようにしようとしていました。それにもかかわらず、スタッグス・リープ・ワイン・セラーズ(SLWC)が快勝。ムートン・ロートシルトと0.5点差とは言え、審査員は確実にフランスワインだと思っていたようです」とスパリュアさんは述懐。
今年の5月24日に行った40周年目の記念テイスティングでも結果は同じで、SLWCが1位だった由。「畑のぶどうをそのままワインにした印象。#5はピュアな果実味。アルコール度数が14.5%ありますが、それを感じさせないバランスの良さ。 #6 の1998年は18年経過し、カシス、胡椒、スパイスなど熟成のニュアンスを感じます」とコメント


なにごとも一番最初が大事
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チリはワイン造りの歴史はあっても、世界市場に向けての輸出は1990年からであり、日本は1995年頃で、わずか20数年しか経っていません。チャドウィックさんはチリワインのポテンシャルを理解してもらおうと試行錯誤しながら様々な挑戦をしますが成功に至らず、最終的に確固たる地位を得ているワインと比べることで存在価値を示そうと決断します。
パリ・テイスティングの仕掛人スパリュアさんを紹介してもらった彼はベルリン・テイスティングの構想を立ち上げ、テロワールを表現したワインを選択。「自分が造る5つのワインがトップ5のなかにひとつでも入れば上出来」ということで覚悟を決めテイスティングを開催。ところが1位、2位を独占する結果になり、彼自身も、スパリュアさんも、会場にいたすべての人が驚愕! この出来事も先のテイスティング同様、ワイン界の偉業として語りつがれています。※末尾のデータ参照

「ブラインドだったことに意義がある」と語っていたチャドウィックさんは、月面着陸のニール・アームストロング船長の話を例にして「なにごとも一番が肝心」と先人の重要性を力説。「チリワインがワールドクラスのワインと拮抗するまでになったことをわかってもらえました」と述べました。

ドン・マキシミアーノ・ファウンダーズ・リザーヴ
#7:2013 Viña Errazuriz, Don Maximiano Founder's Reserve Cabernet Sauvignon
#8:1984 Viña Errazuriz, Don Maximiano Founder's Reserve Cabernet Sauvignon

エラスリスの創始者ドン・マキシミアーノは1970年にはCS100%でワイン造りをしていました。チリは東にアンデス山脈、西に太平洋があり、冷たい海流の影響を受けています。ドン・マキシミアーノのぶどう畑は海から65㎞内陸のアコンカグア・ヴァレーに位置する85㌶のぶどう畑(チリ初の斜面に耕作した畑)で、CS等ボルドー品種を植樹、灌漑(ドリップイリゲーション)を行い、沖積土壌で粘土の多い場所にはカルメネール、砂利の多い場所にはCSを。もう少し海岸寄りの冷涼エリアではSBやPNを栽培しています。
#7の2013年(CS79%、マルベック10%、カルメネール6%、PV5%)は過去10年間で一番涼しかった年。冷涼年はエラスリスの求めるワインスタイルを反映。凝縮感がありエレガント、カシスやブラックベリー、酸味があり、切れがあってバランスの取れたワイン

スパリュアさんは「2013年は素晴らしいワインです。私は2004年から見ていますが品質の向上を感じます。ぶどう畑の特徴、テロワールを反映しています。ボルドーのトップシャトーもテロワールを重視、そこではぶどうを語るより、畑をいかに表現するかです。標高は400~500㍍、素晴らしいブレンド比率で、マルベックはワインにフレッシュな果実感を、カルメネールはスパイス感、PVは力強さ。このワインはパワフルでエレガント、調和が取れていて長熟が期待できます」とコメント

チャドウィックさんは「32年経過した1984年(#8)は2回目のヴィンテージで、当時15㌶しかなかった畑のぶどうの質の高さを感じて欲しいです。1960年代のボルドーと同じ造り、今より早いタイミングでの収穫でした。今より軽いスタイル、レザーのニュアンス、酸味、複雑味」と。

2005年からビオディナミ農法を導入したセーニャ
2015年セーニャ20周年のヴァ―ティカル・テイスティング・ディナーがありました。ここでは世界市場に向けての試行錯誤、故ロバート・モンダヴィさんとの対面からセーニャ誕生までの経緯、ベルリン・テイスティングでの快挙についてチャドウィックさんが多くを語っていますので、ご一読いただけると嬉しいです。 http://non-solo-vino.blog.so-net.ne.jp/2015-04-12

#9:2013 Seña
#10:2000 Seña
1995年に初めてセーニャが誕生。この時はヴィーニャ・エラスリスが所有する畑のぶどうから造りましたが、その後、海から内陸に40kmの場所に45㌶の畑を購入。岩が多い土壌で、CSやカルメネールが成熟する畑。2013年はサックリングが99点を付けています。ファミニンなワイン、エレガンスとフィネスを追及するエラスリスが、それを見事に証明したワイン。2000年は16年経過していますが、柔らかみがあり、スパイス、鉛筆、甘草のニュアンス

スパリュアさんは「2013年(#9)は冷涼年を完璧に表現したワイン。美しく、シームレス(継ぎ目がなく滑らか)。絶賛したいワイン、ワクワクするワイン。また2000年(#10)はスケールが大きなワインでリッチなスタイル。2013年と比べると2000年は温暖。フレッシュ感、果実感もあり」

ベルリン・テイスティングで活躍したヴィニエド・チャドウィック
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左が2014VT、右が2000VT

#11:2014 Viñedo Chadwick
#12:2000 Viñedo Chadwick
アコンカグア・ヴァレーから南に100km、マイポ・ヴァレーにあるプエンテ・アルトはチリの伝統的なぶどう栽培のエリアで、CSの銘醸地。1880年代からぶどう生産をしていた経緯があります。彼の父親はポロの名選手であり、競技場を所有。生涯をワインとポロにかけていました。1992年、父親がリタイアし、チャドウィックさんは会社に入社。ポロの競技場をぶどう畑にした変換した翌93年に父親が逝去。 
2014年(#11)はチリワインの歴史上の快挙100点評価。2014年は霜害を受けた年で50%の収穫減、夏は暑すぎず、ゆっくりと熟成させることができたので、カシス、ピュアな果実味 バランス良好。「2014年はまだ若さを感じるワイン。故ポール・ポンタリエさんが〝若い時に良いワインはいつまでたっても素晴らしい〟と表現していますが、このワインにはその形容がふさわしいです。偉大なワインは熟成で変化します。セーニャと比べると筋肉質、男性的、例えればラトゥール的。CS100%でこのようなエレガントさは素晴らしい」とスパリュアさん


2004年のベルリン・テイスティングで1位だった記念すべき2000年ヴィンテージ
「ブラインドでいつ飲んでもわかるワイン。残り数本となりましたが、皆さんと共有したかったので持参しました」とチャドウィックさん

12種類のそれぞれに意味あるワインをテイスティングしましたが、マイベストは2000年のヴィニエド・チャドウィック(#12)。スパリュアさんがセミナーのなかで何度か使っていた最適表現〝シームレス(継ぎ目のない)〟、滑らかな舌触り、ドライフラワー、スパイス等、複雑味のある熟成に耐えうるワイン。残り数本しかないという、2004年当時のヒーローワインを味わえたことは感無量!

ベルリン・テイスティング時の正直な気持ち
チャドウィックさんは当時を振り返って「本当にサプライズ」と表現。1回目はチリのテロワール、ポテンシャルが伝われば良いと思っていたそうです。特にフランスとイタリアのワインは2000年VTを選んでいて、シャトー・マルゴーにしてもシャトー・ラフィットにしても当時は100点をゲットしていたワインであり、それでチリのワインが1位になったのは運命だったと。

「1回目は何も失うものはなかったので、本当のチャレンジは2回目以降。1位で終わっていれば、素晴らしいストーリーで完結です。でも、2回目以降のチャレンジにはリスクがあり、正直言って怖かったのですが、ブラジルでも2位、3位を取り、日本でも1位のシャトー・ラトゥール以降、2位から5位まですべてチリワイン。ここには一貫性があり、それが真実を物語っていますし、今はそれが確信に変わっています」


この日いただいた本のあとがきは2016年6月付、何と日本語訳でビックリ! 
翻訳を担当したのは『パリスの審判』の訳者葉山考太郎さんだそうです。お疲れ様でした!

2006年に東京でベルリン・テイスティングの再現を行いましたが、当時の功労者はワインジャーナリスト、ヴィノテーク創始者の有坂芙美子さんでした。セミナーを仕切ったスパリュアさんとチャドウィックさんと有坂さんの3人が揃ったのは、東京で開催したベルリン・テイスティング10周年記念ディナー以来です。
一期一会の時間を共有させていただき、光栄でした!!!

参考データ
1976年5月24日開催パリ・テイスティングの結果
白ワインの部
1位:シャトー・モンテレーナ1973、2位:ムルソー・シャルム ギー・ルロー1973、3位:シャローン1974、4位:スプリング・マウンテン1973、5位:ボーヌ・クロ・デ・ムーシュ ジョセフ・ドルーアン1973、6位:フリーマーク・アベイ1972、7位:バタール・モンラッシェ ラモネ・プルドン1973、8位:ピュリニー・モンラッシェ ルフレーヴ1972、9位:ヴィーダー・クレスト1972、10位:デイヴィッド・ブルース1973
赤ワインの部
1位:スタッグス・リープ・ワイン・セラーズ1973、2位:シャトー・ムートン・ロートシルト1970
3位:シャトー・モンローズ1970、4位:シャトー・オー・ブリオン1971、5位:リッジ・モンテ・ベロ1971、6位:シャトー・レオヴィル・ラス・カーズ1971、7位:マヤカマス1971、8位:クロ・デュ・ヴァル1972、9位:ハイツ・マーサズ・ヴィンヤード1970、10位:フリーマーク・アベイ1969

2004年1月23日開催ベルリン・テイスティングの結果
主催:スティーヴン・スパリュア、ルネ・ガブリエル、エデュアルド・チャドウィック
1位:ヴィニエド・チャドウィック2000、2位:セーニャ2001、3位:シャトー・ラフィット・ロートシルト2000、4位:シャトー・マルゴー2001、同点4位:セーニャ2000、6位:ヴィニエド・チャドウィック2001、同点6位:シャトー・マルゴー2000、同点6位:シャトー・ラトゥール2000、9位:ドン・マキシミアーノ・ファウンダーズ・リザーヴ2001、10位:シャトー・ラトゥール2001、同点10位:ソライア2000


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