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悠久の歴史を感じさせる甲州ぶどうのルーツ解明! [ワイン]

昨日9日、山梨大学甲府キャンパスで、“甲州”ぶどうのルーツに関する学会発表がありました。
甲州ぶどうは日本固有の品種として知られており、2010年にはブドウ・ワイン国際機構OIVに品種登録されました。カリフォルニア大学デイビス校によるDNA鑑定では85%ビティス・ビニフェラと判定されており、生産量が一番多い山梨県では、近年品質向上が著しく、甲州ぶどうから造られるワインは海外から高い評価を得ています。

甲州ぶどう.jpg
形は楕円で、果皮は赤い薄紫色の甲州

今回の発表は独立行政法人酒類総合研究所研究企画知財部門部門長の後藤奈美先生が行いました。後藤先生からいただいた資料の報道解禁日は平成25年11月8日、日本ブドウ・ワイン学会(ASEV Japan)での発表が9日だったので、香港から戻って最初のブログ報告にしました。

甲州にはビニフェラと野生ブドウのDNAが
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ルーツ発表に関しては、8月6日の『国産ワインコンクール2013』受賞ワイン記者会見後に行われた山梨県酒造組合のセミナーのなかで、後藤奈美講師から、おおよその話は聞かされていました。同県にとって一番重要なぶどう品種であり、かつ、OIVの登録も済んでいるぶどうだからですが、ワイン生産者にとっては、今まで通り、甲州名をラベルに記載できるかどうかということも気になる点でした。

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ラベル表記に関しては問題なしです。■ブドウ品種の表示に関する生産国の規則(代表的な生産者団体が発した規則を含む)に従っていること、■OIV等の国際機関で公式に分類・登録されたブドウ品種であること、以上を満たしているので問題ないそうです。

背景として報道用資料の一部転載
ブドウには多くの品種があり、■ワイン用品種であるビテイス・ビニフェラ(Vitis vinifera)、■グレープジュースなどに使われるラブルスカ系品種、■ヤマブドウなどの野生種に分類されます。‘甲州’は奈良時代の僧、行基が薬師如来から授けられたとも、平安時代末期に雨宮勘解由(あまみやかげゆ)が見つけたとも言われています。現在では東洋系のビニフェラとされ、ビニフェラが生まれたコーカサス地方(黒海とカスピ海に挟まれた地域)からシルクロードを通って日本にもたらされたと推定されていますが、‘甲州’の分類や由来には諸説あり、明確になっていませんでした。

結果
‘甲州’のDNAを詳細に解析したところ、大部分はビニフェラであり、一部中国の野生ブドウのDNAが含まれていることが明らかになりました。‘甲州’の祖先にあたるビニフェラが中国で野生種と交雑※1し、さらにビニフェラと交配※2して、日本に伝わったと考えられます。後藤先生いわく「甲州がシルクロードを伝わって日本にたどり着いたことがDNAのなかに刻み込まれていた」と。
※1ビニフェラとビニフェラ以外の種の掛け合わせ
※2ビニフェラ同士の掛けあわせ

結果の詳細
アメリカの研究チーム※3 との共同研究で、DNAのSNPs解析※4を実施。下図にあるように、‘甲州’はビニフェラの近くに位置しつつも、野生種寄りにいることが判明されました。計算上は71.5%がビニフェラ、残りが野生種。‘甲州’はビニフェラと野生種の交雑品種(雑種1代)ではなく、さらにもう一度、ビニフェラと交配した品種(1/4が野生種)である可能性が高いと言えます。
母親(胚珠親)から遺伝する葉緑体DNA※5の調査で、‘甲州’の葉緑体はビニフェラ型ではなく、東アジア系の野生種に近く、中国の野生種Vitis davidiiの一系統と一致することが判明。

※3アメリカ、コーネル大学、アメリカ農務省農業研究所などの研究チーム Sean Myles et al. PLoS ONE, 5(1): e8219 (2010)
※4 SNPs、一塩基多型(Single Nucleotide Polymorphism)。同グループの生物のDNA配列を比較したときに見つかる1塩基の違い。個人間やブドウの品種間のような近い関係にある生物の違いを研究するために行われる
※5 植物の葉緑素のなかにあるDNA、母親から遺伝することが知られている

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(C)独立行政法人酒類総合研究所

私的感想
後藤先生は、甲州のルーツが判明した今、「甲州のワインを飲む時、このブドウははるばるシルクロードをたどって来たのだと感じていただけると嬉しいです」と。加えて、「長い時間をかけて交配・交雑が行われてきた自然の育種の力はすごいと感じます」とプレス用の資料に記しています。
悠久の歴史、ロマンを感じさせてくれる甲州の足跡に、後藤先生の表現した自然の育種の素晴らしさを実感すると同時に、私は甲州に遺伝的な強さ、たくましさを感じました。
甲州ぶどうの栽培家、ワインの生産者は、さらに良いものを造ろうと切磋琢磨しています。日本ワインの先導ぶどう、愛すべき甲州ぶどうの動きに期待しています。

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まろまろまね

私も週末勝沼に行きましたが、このお話もされていました。甲州、ますます大好きになりました。甲州といってもたくさんのタイプがあるのでこれからもどんどん飲んでいきたいです!
by まろまろまね (2013-11-18 06:45) 

Georges

こんにちは。
11月11日の拙ブログに書いたのですが、この鑑定結果にはかなり疑問が残ると思います。

即ちヴィティス・ヴィニフェラの何という葡萄とヴィティス・ダヴィディイの何との交雑か特定に至っていないと云うこと。
この結論は単に純粋なヴィティス・ヴィニフェラではないということだけが判明したと云うだけのはず。

例えばカリフォルニア大学デーヴィス校などでは交配・交雑の相手を特定するまで研究が進んでいるはず。

如何でしょうか?
by Georges (2013-11-23 17:01) 

fumiko

まろまろまねさん

今後も甲州ファンとして、辛口から甘口まで大いに楽しんでください!


Georgesさん

シャンパンの規定品種の時は、細かな情報ありがとうございました。
今回の甲州のルーツに関するブログは、私だけでなく、新聞社系等、
多くの媒体が、学会報告として掲載しております。

私も以前発表された甲州のルーツと比較しながら、今回の発表を受け止め、私的感想を含めながらまとめさせていただきました。

Georgesさんからの書き込みは、後藤先生にお伝えしました。
先生から「甲州の場合は、親にあたる昔の中国のブドウが残っていない可能性も高いので、この程度が限界かもしれません」とのお返事をいただきました。

Georgesさんに、まだご意見がおありなら、恐れ入りますが、所轄の
独立行政法人 酒類総合研究所の後藤奈美先生あてに
「文書」でお願いいたしたく存じます。

〒739-0046
広島県東広島市鏡山三丁目7番1号
独立行政法人酒類総合研究所
後藤 奈美様宛

宜しくお願いいたします。  青木冨美子
by fumiko (2013-11-24 13:22) 

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