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シャトー・マルゴー最高醸造責任者ポール・ポンタリエさんと桔梗ヶ原メルローとの15年 [ワイン]

シャトー・メルシャンの哲学はフィネス&エレガンスIMG_8192  .jpg
(左)『シャトー・メルシャン桔梗ヶ原メルロー』 、数多くの受賞歴を誇っています。
(右)『桔梗ヶ原メルロー シグナチャー』は桔梗ヶ原メルローの最高峰、和紙のラベルにも品格あり

8月末にシャトー・マルゴーの総支配人兼醸造責任者のポール・ポンタリエさんが来日して、『シャトー・メルシャン 桔梗ヶ原メルロー』特別セミナーを行いました。ポンタリエさんは1998年から同社の醸造アドバイザーを務めています。素晴らしいセミナーだったので、早々にアップしたかったのですが、セミナー後すぐに南米取材があり、帰国後の後れ馳せながらの公開になってしまいました、sorryです。

冒頭、和田営業本部長は「低~高までの価格帯、新世界だけでなく、伝統国(フランス、イタリア)を含めたワイン全体好調で、上半期は5%程度の伸びになっています。日本ワインも数量に加え、国・内外のコンクールでも高い評価を得ており、品質向上が顕著です」とあいさつ。同社では、ポンタリエさんからの助言「偉大なワインは調和とバランスが大事」を反映させた、“フィネス&エレガンス(調和のとれた上品なあじわい)”をシャトー・メルシャンの哲学にしています。

桔梗ヶ原メルローについて
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桔梗ヶ原の所在地 資料:メルシャン株式会社

セミナーの前半は藤野勝久シニア・ワインメーカーが桔梗ヶ原について説明
■長野県塩尻にある桔梗ヶ原は、奈良井川と田川の真ん中に位置する台地状の地形。2つの川の間の河岸段丘が隆起したもので、土壌の基盤は礫(レキ)層。その上に火山層が2~3㍍ほど堆積しており、地下水位が低いため、水はけがとても良い

■栽培と醸造の歩み
1890年代に桔梗ヶ原にぶどうを植樹。1938年塩尻は日本一の加工ぶどう産地となるが、その多くは甘味果実酒のための原料ぶどうであった。1975年甘味果実酒に代わり、果実酒(ワイン)の需要が増加し、消費量が逆転。1976年ぶどう生産者に対して欧州系ぶどうメルロー栽培への転換を依願。同年からメルローの栽培を開始、この時の林幹雄さん(林農園)の強力な一言が生産者の気持ちを後押し。1989年『シャトー・メルシャン信州桔梗ヶ原メルロー1985』新発売、リュブリアーナ国際ワインコンクールで同ワインが大金賞を受賞、メルローの成果が出た初受賞!

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桔梗ヶ原の棚式栽培のメルロー 画像:メルシャン株式会社

1980年代の桔梗ヶ原はぶどう樹にわらを巻かないと枯れてしまうほど寒い地域だったので、垣根式栽培という発想など全くなく、“棚式栽培”でメルロー生育の可能性を見ていました。1989年の大金賞受賞後、同社では様々なトライアルを行い、試行錯誤が続いていました。そのような折、1992年からボルドーのシャトー・レイソンに赴任していた藤野さんの長女と、ポンタリエさんの次男が同級生だったことがきっかけとなり、ポンタリエさんに桔梗ヶ原メルローを利き酒してもらうチャンス到来。そのご縁で、1998年にポンタリエさんは同社の醸造アドバイザーに就任。以後、15年間、ポンタリエさんからの忌憚ない助言の数々は、桔梗ヶ原メルローの品質向上に多大なる好影響を与えています。

ポンタリエさんとの15年間の歩み
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ポール・ポンタリエ氏のプロフィール
1975年パリ国立農業大学に入学、その後、モンペリエ国立高等農業大学でぶどう栽培&ワイン醸造を習得、1978年ボルドーに戻り、ボルドー大学醸造学博士課程に入学、1981年論文『赤ワインの小樽熟成について』で博士号を取得、チリのサンチャゴ大学ワイン醸造学教授を経て、1983年、エミール・ペイノー教授の招聘でシャトー・マルゴーのワインメーカーに就任、30年にわたり同シャトーの総支配人兼最高醸造責任者として活躍  出典:メルシャン株式会社

30年前に初来日して、すぐに日本が好きになったというポンタリエさん。その魅力は「文化が洗練されていて、かつ個人個人が上品で気配りができる日本人の人間性にあった」と。
醸造アドバイザーをするにあたり、心掛けていたのは、「ワイン造りの定義は国によって様々であり、テロワールも違うので、フランスやカリフォルニア等と同じものを造っていくのではなく、本当の意味での“日本ワインを造る”ことであり、そのためには日本の文化、食生活と常にリンクしていかなければならないということでした」と述懐していました。

桔梗ヶ原メルローを初めて試飲した時の印象は、リッチさや肉厚感があり、ポテンシャルを感じたそうですが、栽培上の欠点も明確に感じ取っていたので、アドバイザー就任後、最初に指摘した事柄は、ぶどう畑の再構築、“垣根式栽培の導入”でした。ポンタリエさんから「棚式栽培のぶどうを使っている限り、醸造チームが求めている“上品さや力強さ”をワインに反映させるのは難しい」との忌憚ない意見を受けたメルシャンは、1999年、桔梗ヶ原メルローの垣根式栽培導入を決断します。15年間にわたるポンタリエさんとメルシャンとの歩みは、セミナーに登場した4アイテムをテイスティングすることで、その進化、ワインの真価を感じることができました。

4アイテムを垂直試飲
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ワインは左から
#1:シャトーメルシャン 信州桔梗ヶ原メルロ-1990
棚式栽培100%、ワイナリーのリニューアル後、ネーミングは『桔梗ヶ原メルロー』に変更。1990年は世界的に作柄の良い年。このワインは1994年に藤野さんがポンタリエさんに初めて利き酒してもらった記念のヴィンテージVTになります。

ポンタリエ:ある程度のポテンシャルとある程度の欠点が共存するワインでした。初めて試飲した時に香りからこのワインにポテンシャルがあることがわかりました。年月を経た今、ワインに柔らかさが出てきています。当時感じたワインの欠点は今も変わっていません。それは植物的なニュアンスがあるところです。口中で痩せた印象があり、後味に若干の苦みと渇きを感じます。人間に例えれば、30歳の頃の短所は加齢してもそんなに簡単に変わらないのと同じで、いくつかの欠点は瓶熟中に変わるものではありません。通常、このようなニュアンスはぶどう樹の若さと関連付けられますが、このワインの場合は棚栽培の方法と桔梗ヶ原とのテロワールがマッチしていなかったことが原因と考えられます。

棚式栽培ではぶどうに十分な日照が得られず、十分な熟度も得られません。そこでアドバイスしたのが棚式ではなく、垣根式栽培を導入すべき、ということでした。それによって、先に挙げた欠点は解消できると考えました。ぶどう樹は長い目で見ていかなければなりません。長い年月、ぶどう畑を管理して、見極めていく必要があるのです。

#2:シャトーメルシャン桔梗ヶ原メルロー シグナチャー2002
棚式栽培100%、2002年から2009年までの3アイテムは桔梗ヶ原メルローのトップレンジ、シグナチャーを試飲しています。

ポンタリエ:アッサンブラージュ(ブレンド)を一緒に取り組んだVTであり、醸造面での進歩も感じます。12年前の1990年VTと比較すると、口中でのリッチさが違います。ただ、まだ棚式栽培のワインであり、アッサンブラージュでの努力はしましたが、アッサンブラージュはワインに奇跡を起こすものではなく、ぶどう造りの欠点を隠すものでもありません。

#3:シャトーメルシャン桔梗ヶ原メルロー シグナチャー2007
垣根栽培100%、『桔梗ヶ原メルロー2007』は2012年にパリの『ヴィナリ国際ワインコンクール』で金賞を受賞。日本の赤ワインで初めての快挙!

ポンタリエ:1999年から導入した垣根式栽培の成果が出ています。これは垣根式栽培100%のワインで、2002年までに出ていた植物的な香りが消えています。先の2002年との間に大きな転換期を感じるVTです。口中ではボリューム感があり、丸み、余韻の長さ、すべての面で向上しています。余韻に若干の樽香があり、少しだけ乾いた印象がありますが、これは数年経過することで、その渇きもワインと馴染み、さらに良くなるはずです。

#4:シャトーメルシャン桔梗ヶ原メルロー シグナチャー2009
棚式栽培のぶどうを3分の1使用、2013年9月正式リリース予定。棚式のぶどうを使った理由について、藤野さんは「フラッグシップのワインであり、最高品質のワインなので、ぶどうの樹齢、天候を考慮しながら、棚式栽培の高品質のぶどうを使用しました」と回答。

ポンタリエ:まだまだ若いワインですが、桔梗ヶ原のポテンシャルを感じることができます。ぶどう樹も年を重ねてきたので、さらによくなるであろうし、それ以上に、桔梗ヶ原のスタイルを確立しつつあると感じています。きれいな果実味、これは日本料理の“清涼感”と良く合います。口中で十分なボリューム感がありますが、タンニンは決して強すぎません。これは他のワイン産地にはない特徴で、これが桔梗ヶ原のスタイルではないかと思っています。赤ワインに力強さは必要ですが、それだけではいけません。アメリカやフランスで食す骨付きの肉の塊ではなく、神戸牛や焼き鳥のような、力強いだけでなく、どこか控え目で奥ゆかしいニュアンスが備わった料理と合わせるのが桔梗ヶ原メルローだと思っています。

前半の2アイテムと後半の2アイテムを比べて見ると、明らかに正しい方向に向かっていることがわかりますし、この先その道を継続して突き進んで行って欲しいと思っています。ぶどう栽培、ワイン造りにはすべきことが多く、思っている以上にたくさんあるので、さらに邁進していってください。

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私のベスト1は2007VT、香りのインパクトが違いました! 
果実風味、ヴァニラ、ロースト感等、複雑味のある、きれいなワイン。清涼感~なるほど

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セミナー終了後の記念画像は講師のポンタリエさんを囲んで、藤野勝久シャトー・メルシャン シニア・ワインメーカー(後方右)と通訳を担当したシャトー・メルシャンの勝野泰朗さん

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質問に答えているところをキャッチ、手に注目です!
「ワインの品質を決める大部分はぶどう畑での作業であり、カーブでの仕事は思いのほか少ないのです」と語っていたポンタリエさんと握手して・・・厚みがあって、とてもとても大きい手でした!


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